Hiroshima Report 2023コラム1 「ヒロシマ・アクション・プラン」の推進とG7広島サミットの意義
石井 良実
日本は、唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」の実現に向け国際社会の取組をリードしていく責務があり、これまでも日本政府として現実的かつ実践的な様々な取組を進めてきた。
「核兵器のない世界」への道のりは、昨今の核軍縮を巡る国際社会の分断に加え、ロシアによるウクライナ侵略の中で核兵器による威嚇が行われ、核兵器の惨禍が再び繰り返されるのではないかと世界が深刻に懸念するなか、一層厳しくなっていると言わざるを得ない。
そうした中、広島出身の岸田文雄総理大臣は、2022年8月にニューヨークで開催された第10回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議に、強い危機感を持って、日本の総理大臣として初めて出席し、会議初日の一般討論演説において、「厳しい安全保障環境」という「現実」を「核兵器のない世界」という「理想」に結びつけるための現実的なロードマップの第一歩として、核リスク低減に取り組みつつ、①核兵器不使用の継続の重要性の共有、②透明性の向上、③核兵器数の減少傾向の維持、④核兵器の不拡散及び原子力の平和的利用、⑤各国指導者等による被爆地訪問の促進の5つの行動を基礎とする「ヒロシマ・アクション・プラン」に取り組んでいくべきことを訴えた。
その後、日本政府は、この「ヒロシマ・アクション・プラン」を具体化すべく様々な取組を進めてきた。2022年9月には、包括的核実験禁止条約(CTBT)フレンズ会合を初めて首脳級で開催し、共同議長を務めた岸田総理大臣は、CTBTの普遍化及び早期発効並びに検証体制の強化の重要性を訴えた。10月には、「ヒロシマ・アクション・プラン」を踏まえつつ、核兵器の不使用の継続や透明性の向上、被爆の実相への理解向上のための軍縮・不拡散教育の重要性などを国際社会に呼びかける核兵器廃絶決議案を国連に提出し、同決議は、12月の国連総会本会議において、核兵器国である米国、英国及びフランス並びに多くの非核兵器国を含む147カ国の支持を得て採択された。さらに、同月には、岸田総理大臣も出席する形で「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議第1回会合を広島で開催した。同会合においては、オバマ元米国大統領などの政治リーダーから力強いメッセージが寄せられるとともに、核兵器国、非核兵器国等から参加した委員による率直かつ忌憚のない議論が行われ、「核兵器のない世界」に向けた国際的な機運を今一度高めていく上で重要な一歩になった。
世界に被爆の実相をしっかりと伝えていくことは、核軍縮に向けたあらゆる取組の原点として重要であり、「ヒロシマ・アクション・プラン」でも重要な柱の1つと位置づけられている。岸田総理大臣は、第10回NPT運用検討会議において、未来のリーダーを日本に招き、被爆の実相に触れてもらい、核廃絶に向けた若い世代のグローバルなネットワークを作ることを目的として、国連に1,000万ドルを拠出し、「ユース非核リーダー基金」を設立することを表明した。
2023年5月には、G7広島サミットが開催される。世界のリーダーが被爆地を訪問し、広島の地から、広島と長崎に原爆が投下されて77年間、核兵器が使用されていない歴史をないがしろにすることはあってはならないとの力強いメッセージを、歴史の重みをもって、世界に発信する機会とすることが重要である。また、核軍縮・不拡散について、G7での議論を日本がしっかり主導していくとともに、引き続き、「ヒロシマ・アクション・プラン」に沿って現実的かつ実践的な歩みを進めていきたい。
いしい・よしざね:外務省軍縮不拡散・科学部軍備管理軍縮課長