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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2024(8) CTBT

A) CTBT署名・批准
CTBTの署名国は2023年末時点で187カ国、批准国は177カ国である。後述のように、ロシアが条約への批准を撤回した。

条約の発効に必要な国と特定された44カ国(発効要件国)のうち、6カ国(中国、エジプト、イラン、イスラエル、ロシア、米国)が未批准、並びに3カ国(インド、北朝鮮、パキスタン)が未署名で、条約は発効していない(このほかに、調査対象国ではサウジアラビア及びシリアが未署名)。

プーチン大統領は2月の年次教書演説で、新STARTの履行停止を表明するとともに、「米国が(核)実験を行えば、我々も実施するであろう」(括弧内引用者)と述べ、留保を付しつつも核爆発実験再開の可能性に言及した213。10月に入ると、プーチン大統領は、米国がCTBTを批准していないのに対して、ロシアは署名も批准もしていると述べたうえで、ロシア議会が批准を撤回することも理論的には可能だと発言した214。これを受けて、ウォロディン(Vyacheslav Volodin)下院議長は10月6日、「世界の状況は変わった。米国とNATOは我が国に対して戦争を仕掛けてきた。今日の課題には新しい解決策が必要だ」とし、CTBT批准撤回の必要性を速やかに検討すると表明した215。ウリヤノフ(Mikhail Ulyanov)CTBT特使もSNSで、ロシアがCTBT批准を撤回する「目的は、条約に署名したが批准しなかった米国と対等な立場になることだ。批准撤回は核実験再開の意図を意味するものではない」216と述べた。ロシア下院が10月18日に、また上院も同月25日に批准撤回の法案をそれぞれ全会一致で可決し、プーチン大統領も11月2日に法案に署名した。

9月22日には、第13回CTBT発効促進会議が開催され、80カ国以上が参加した。最終宣言では、CTBTの早期発効促進及び普遍化に向けた具体的かつ実施可能な措置をとる決意を再確認し、積極的なアウトリーチ活動を行うことなどが合意された217。これに先立つ8月29日には、カザフスタンが主導して制定された「核実験反対国際デー」を記念した会合が国連で開催された。また、7月6日には日本が、CTBT発効促進に向けた地域会合を東京で主催し、条約の普遍化や検証技術などについて議論が行われた218。

2023年の国連総会では、条約の早期発効のために遅滞なく無条件での署名及び批准の重要性と緊急性を強調した決議「包括的核実験禁止条約」219が賛成181、反対1(北朝鮮)、棄権4(インド、サウジアラビア、シリアなど)で採択された。

2023年9月のCTBT発効促進会議では、2022年6月から2023年5月に署名国・批准国が行った条約発効促進のための活動(未署名国・未批准国へのアウトリーチなど)の概要を取りまとめた文書が公表され、発効要件国に対する二国間の取組(豪州、日本、ニュージーランド、ロシア、スイス、英国、米国など)、それ以外の国に対する二国間の取組(豪州、日本、メキシコ、ニュージーランド、ロシア、英国、米国など)、グローバル・レベルでの取組(豪州、日本、韓国、メキシコ、ニュージーランド、ロシア、スイス、英国、米国など)、地域レベルでの多国間の取組(豪州、メキシコ、ニュージーランド、ロシア、米国など)が紹介された220。

 

B) CTBT発効までの間の核爆発実験モラトリアム
5核兵器国、インド及びパキスタンは、核爆発実験モラトリアムを引き続き維持している。上述のようにロシアは、米国が核爆発実験を実施しない限り、自国も行わないとの発言を繰り返した。核兵器の保有の有無を公表していないイスラエルは、核爆発実験の実施の可能性についても言及していない。

北朝鮮は、2018年4月20日に核実験(及び長距離弾道ミサイル発射実験)の凍結を発表したものの、2019年12月末の朝鮮労働党中央委員会総会で、金総書記が核・長距離弾道ミサイル実験の一方的な停止に拘束される理由はなくなったと発言した221。また、金総書記は2022年1月、長距離弾道ミサイル発射実験及び核爆発実験のモラトリアムを再考し、それらの再開を迅速に検討するよう関係部門に指示した222。同年5月以降、北朝鮮による核爆発実験の準備が完了したとたびたび報じられたが、2023年末現在、北朝鮮は核爆発実験を再開していない。

 

C) 包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会との協力
調査対象国によるCTBTO準備委員会への分担金の支払い状況(2023年12月31日時点)は、下記のとおりである223

全額支払い(Fully paid):豪州、オーストリア、ブラジル、カナダ、中国、エジプト、フランス、ドイツ、インドネシア、イスラエル、日本、カザフスタン、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ロシア、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国
一部未払い(Partially paid):韓国、南アフリカ
(過去2年間の未払いにより)投票権停止:イラン

 

D) CTBT検証システム構築への貢献
CTBTの検証体制は着実に整備されてきた。他方で、国際監視制度(IMS)ステーションの設置については、本調査対象国のうち未署名国で検証システムの構築にまったく関与していないインド、北朝鮮、パキスタン及びサウジアラビアを除けば、エジプト及びイランでの進展が遅れている。また、依然として中国の半数近くの施設でCTBTO準備委員会による認証が完了していない224

米国は2023年6月のCTBT科学・技術会議で、核爆発実験の探知・検証に関する自国の取組や貢献を紹介した225。また、9月末にはIAEA総会で、ロシア及び中国との緊張緩和を主眼として、核爆発実験モラトリアムの維持について核実験場への相互訪問を提案した226。10月には、低出力核爆発を検知する米国の能力向上を目的として、ネバダ国家安全保障施設(NNSS)で地下化学爆発を実施した。国家核安全保障局(NNSA)は、「この実験は新しい爆発予測モデルと検知アルゴリズムの検証に役立つ。測定は加速度計、地震計、低周波音センサー、電磁センサー、化学物質・放射性トレーサーサンプラー、気象センサーを用いて収集された」227と報告した。

ロシアは、CTBT批准を撤回する一方で、11月に国防省が、2023年中に自国領域内のCTBT国際監視システムを完成することを明らかにした228。

 

E) 核実験の実施
2023年に核爆発実験を実施した国はなかったが、米国は前年に続き2023年版「軍備管理・不拡散・軍縮合意遵守報告書」で、中露が、CTBTのスタンダードは「出力ゼロ(zero yield)」であるとの共通の理解に反して、出力を生じる核実験を実施した可能性があると指摘した229。中露は、条約に違反するいかなる実験も実施していないとして、米国の疑念を否定している。

2月には、ロシア核センターのソロビョフ(Vyacheslav Solovyov)科学部長が、必要とあればノバヤ・ゼムリャ(Novaya Zemlya)核実験場で実験を再開する用意ができていると言明した230。プーチン大統領は年次教書演説で、核爆発実験再開の準備を指示するとともに、「ロシアが最初に実験することはない。しかし米国が実験すれば、われわれも行う」と付言した231。9月には、衛星画像から、中国、ロシア及び米国が地下核実験場を拡張しているとの分析が報じられた232。

核爆発実験以外の活動については、米国が核備蓄管理計画(SSP)のもとで、「地下核実験を行うことなく備蓄核兵器を維持及び評価する」ことを目的として、未臨界実験、あるいは「Zマシン」(強力なX線を発生させる装置)を用いて超高温・超高圧の核爆発に近い状態をつくり、プルトニウムの反応を調べるという実験を含め、核爆発を伴わない様々な実験を継続してきた。NNSAは2024会計年度(2023年10月〜2024年9月)に2回の未臨界実験の実施を予定していることを報告したが233、2023年末時点で、これらが実施されたとは報じられなかった。

フランス、ロシア及び英国も未臨界実験など核爆発に至らない実験などの活動を行っているが、2023年に具体的な事例は報じられなかった。残る核保有国は、核爆発を伴わない実験の実施の有無に関して公表していない。

CTBTは核爆発を伴わない実験を禁止していないが、NAM諸国はこれに加えて、「まだそうしていないすべての締約国が、可能な限り速やかに、透明で不可逆的かつ検証可能な方法で、残る核爆発実験用のサイトや研究所、及びそれらに関連するインフラを閉鎖・解体し、核兵器の研究開発を完全に禁止すべきであること、並びにCTBTの目的及び趣旨を損なうような、核兵器の実験爆発やその他の核爆発、あるいはシミュレーションや未臨界実験を含む代替的な方法による核兵器爆発実験、並びに既存の核兵器システムを改良するための新技術を使用すべきでないことという確固たる見解を有している」234と主張した。なお、「核爆発実験」の禁止を定めたCTBTとは異なり、TPNWでは「核実験の禁止」が規定されており、これには核爆発実験以外の実験も含まれると解釈しうる。ただし、これに関する検証措置などはTPNWには規定されていない。


213 “Putin Orders Army to Prepare for Nuclear Tests, Saying US Is Creating New Weapons,” Ukrainska Pravda, February 21, 2023, https://www.pravda.com.ua/eng/news/2023/02/21/7390282/.
214 “Putin Says Russia Has Tested Next-Generation Nuclear Weapon,” Reuters, October 6, 2023, https://www.reuters.com/world/europe/putin-says-russia-has-tested-next-generation-nuclear-weapon-2023-10-05/.

215 “Russian Lawmakers to Consider De-Ratifying Nuclear Test Ban Treaty,” Moscow Times, October 6, 2023, https://www.themoscowtimes.com/2023/10/06/russian-lawmakers-to-consider-de-ratifying-nuclear-test-ban-treaty-a82681.
216 “Russia Will Revoke Ratification of Nuclear Test Ban Treaty, Envoy Says,” Guardian, October 7, 2023, https://www.theguardian.com/world/2023/oct/06/nuclear-watchdog-russia-putin-testing-treaty.
217 “Final Declaration and Measures to Promote the Entry Into Force of the CTBT,” September 22, 2023.
218 「包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進に向けた地域会合の開催(結果)」外務省、2023年7月7日、https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press5_000063.html。
219 A/RES/78/66, December 4, 2023.
220 CTBT-Art.XIV/2023/4,August 28, 2023.

221 “Report on 5th Plenary Meeting of 7th C.C., WPK,” NCNK, January 1, 2020, https://www.ncnk.org/resources/publications/kju_2020_new_years_plenum_report.pdf/file_view.
222 Colin Zwirko, “North Korea Hints at ‘Resuming’ Long-Range Weapons Tests after New US Sanctions,” NK News, January 20, 2022, https://www.nknews.org/2022/01/north-korea-hints-at-resuming-long-range-weapons-tests-after-new-us-sanctions/.
223 CTBTO, “Status of Assessed Contributions,” December 31, 2023, https://www.ctbto.org/sites/default/files/2024-01/20231231_Status%20of%20Assessed%20Contribution_0.pdf.
224 CTBTO, “Station Profiles,” https://www.ctbto.org/verification-regime/station-profiles/.
225 “Remarks by NNSA Deputy Administrator for Defense Nuclear Nonproliferation Corey Hinderstein at the CTBT: Science and Technology Conference 2023,” NNSA, June 20, 2023, https://www.energy.gov/nnsa/articles/remarks-nnsa-deputy-administrator-defense-nuclear-nonproliferation-corey-hinderstein.
226 Jonathan Tirone, “US Offers Nuclear-Test Inspections to Ease Russia, China Tension,” Bloomberg, September 29, 2023, https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-09-28/us-throws-nuclear-arms-control-a-life-preserver-at-iaea-meeting.

227 “NNSA Conducts Experiment to Improve U.S. Ability to Detect Foreign Nuclear Explosions,” NNSA, October 18, 2023, https://www.energy.gov/nnsa/articles/nnsa-conducts-experiment-improve-us-ability-detect-foreign-nuclear-explosions-0.
228 “Russia Says It’s Completing Its Section of International Nuclear Test Monitoring Network,” Reuters, November 17, 2023, https://www.reuters.com/world/europe/russia-says-its-completing-its-section-international-nuclear-test-monitoring-2023-11-17/.
229 The U.S. Department of State, Adherence to and Compliance with Arms Control, Nonproliferation, and Disarmament Agreements and Commitments, April 2023.
230 “‘We Are Ready’: Novaya Zemlya Range Ground Ready to Resume Nuclear Tests,” Pravda, February 8, 2023, https://english.pravda.ru/news/russia/155726-russia_novaya_zemlya/.
231 Tetiana Lozovenko, “Putin Orders Army to Prepare for Nuclear Tests, Saying US Is Creating New Weapons,” Ukrainska Pravda, February 21, 2023, https://www.pravda.com.ua/eng/news/2023/02/21/7390282/.
232 Eric Cheung, Brad Lendon and Ivan Watson, “Satellite Images Show Increased Activity at Nuclear Test Sites in Russia, China and US,” CNN, September 23, 2023, https://edition.cnn.com/2023/09/22/asia/nuclear-testing-china-russia-us-exclusive-intl-hnk-ml/index.html. 中国の活動については12月にも、新しい坑道の掘削などといった活動を活発化させていることが報じられた。William J. Broad, Chris Buckley, and Jonathan Corum, “China Quietly Rebuilds Secretive Base for Nuclear Tests,” The New York Times, December 20, 2023, https://www.nytimes.com/interactive/2023/12/20/science/china-nuclear-tests-lop-nur.html.

233 “Remarks by NNSA Deputy Administrator for Defense Nuclear Nonproliferation Corey Hinderstein at the CTBT: Science and Technology Conference 2023,” NNSA, June 20, 2023, https://www.energy.gov/nnsa/articles/remarks-nnsa-deputy-administrator-defense-nuclear-nonproliferation-corey-hinderstein.
234 NPT/CONF.2026/PC.I/WP.9, June 14, 2023.

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