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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2023(9) 兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)

A) 条約交渉開始に向けた取組
1995年NPT運用検討・延長会議で採択された「原則及び目標」では、CDにおけるFMCTの即時交渉開始及び早期締結が目標に掲げられた。しかしながら、現在に至るまで条約交渉は開始されていない。2022年のCDの会期でも、パキスタンの反対により、FMCTの交渉を行う特別委員会(ad hoc committee)の設置を盛り込んだ作業計画を採択できなかった。パキスタンは前年までと同様に、「検証可能な方法で既存の在庫を削減する核分裂性物質条約を要求している。いわゆるFMCTは、一部の核兵器国が保有する不平等で大規模な核兵器や核分裂性物質の在庫を凍結するものである。パキスタンは、このような差別的な提案に反対しており、今後も反対する」288と主張した。また、パキスタンはCDで、インドはFMCT支持を表明しながら、兵器用核分裂性物質の生産に関するモラトリアムを宣言せず、生産も停止しておらず、「それどころか、高速増殖炉を新たに建設し、核分裂性物質を戦略備蓄と称して何トンも蓄えて、生産量を飛躍的に拡大し続けている」289と批判した。

NPT運用検討会議では、メキシコが主要委員会Ⅰで、何十年も機能していないCDにおけるFMCT交渉を約束するのは逆効果であり、他の選択肢もオープンにすべく、最終文書では交渉のフォーラムとしてCDに言及しないよう求め、米国もCDでの交渉を条件としないことに合意した290。しかしながら、CDでの交渉を主張する国もあり291、NPT運用検討会議の最終文書案では、「軍縮会議に対して、CD/1299及びそれに含まれるマンデートに従い、核兵器または他の爆発装置に使用するための核分裂性物質の生産を禁止する非差別的、多国間及び国際的かつ効果的に検証可能な条約に関する交渉を直ちに開始し、早期に妥結するよう求める」と記載された。

2022年の国連総会では、CDにおけるFMCT交渉の即時開始、並びに兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムなどを求める決議「兵器用核分裂性物質生産禁止条約」292が、賛成171、反対3(中国、イラン、パキスタン)、棄権8(エジプト、イスラエル、北朝鮮、ロシア、シリアなど)で採択された。中国は前年の賛成から反対に転じ、ロシアも賛成から棄権に投票行動を変化させた。

 

B) 生産モラトリアム
前年までと同様に、中国、インド、イスラエル、パキスタン及び北朝鮮が兵器用核分裂性物質生産モラトリアムを宣言していない。このうち、少なくともインド、パキスタン及び北朝鮮は、兵器用核分裂性物質の生産を継続していると見られる。

NPT運用検討会議では、日本などが兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムを宣言していない国に宣言するよう求め、当初の最終文書案にはこれが記載された。しかしながら、中国の反対により、最終文書案第二改訂版では削除された。

その中国は、現時点では兵器用核分裂性物質を生産していないと見られているが、生産モラトリアムを宣言することには否定的である。その理由として中国の軍縮大使は2020年に、「生産モラトリアムは、FMCT問題を完全かつ効果的に解決するための基本的な道筋ではない。とりわけ現在、一部の国が今日肯定したことを翌日には否定するかもしれず、また前政権が行った政策や公約を現政権が恣意的にすべて否定することもありうる」293と発言した。他方で、米国などは、中国が民生用として開発を進める先端高速増殖炉と再処理施設が、核兵器目的に利用される可能性への懸念も示している294。

北朝鮮については、2022年も核分裂性物質の生産や、関連する活動を積極的に行っていると見られることが報じられた。米国の専門家は2月、北朝鮮が寧辺(Yongbyon)の5MW原子炉やウラン濃縮工場(UEP)の稼働を続けていると分析した295。また5月には、北朝鮮が50MW原子炉の建設を再開したと見られると報じられた296。7月には、北朝鮮が5MW原子炉の稼働を継続し、また再処理に向けた準備と見られる活動も行っているとの分析が示された297。

イスラエルについては、専門家が衛星画像から、兵器用プルトニウムを生産してきたと見られるディモナ核施設で大規模な拡張工事が行われているとの分析を明らかにした298。イスラエルは工事の目的を明らかにしていないが、核弾頭に用いるトリチウムを生産するための施設を建設している可能性が指摘されている299。

核保有国は、自国が保有する兵器用核分裂性物質の量を公表していないが、民間の研究所による分析・推計については本報告書第3章で取りまとめている。

 


288 “Statement by Pakistan,” General Debate, UNGA First Committee, October 4, 2022.
289 Muhammad Irfan, “Pakistan Hits Back at India in a Key UN Disarmament Panel; Calls it’s Record ‘dubious’,” UrduPoint, January 28, 2022, https://www.urdupoint.com/en/miscellaneous/pakistan-hits-back-at-india-in-a-key-un-disar-1457730.html.
290 Ray Acheson, “Report on Main Committee I,” NPT in the Review, Vol. 17, No. 7 (August 18, 2022), p. 16.
291 たとえば中国は、「シャノンレポート(CD/1299)に基づき、すべての関係者の参加を得て軍縮会議においてこのような条約を交渉し締結することが、核軍縮プロセスを促進し、核兵器の拡散を防ぎ、国際平和及び安全を維持することになると考えている」と論じた。NPT/CONF.2020/41, November 16, 2021.
292 A/RES/77/68, December 7, 2022.

293 “No Clear Path forward for Fissile Material Cut-off Treaty,” IPFM Blog, May 24, 2020, http://fissilematerials. org/blog/2020/05/no_clear_path_forward_for.html.
294 The U.S. Department of Defense, Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2022, p. 97などを参照。
295 Peter Makowsky, Jack Liu and Jenny Town, “Yongbyon Nuclear Center: Insights from a Snow-covered Day,” 38 North, February 17, 2022, https://www.38north.org/2022/02/yongbyon-nuclear-center-insights-from-a-snow-covered-day/.
296 Jeffrey Lewis, “New Construction at Yongbyon,” Arms Control Wonk, May 13, 2022, https://www.armscontrol wonk.com/archive/1215802/new-construction-at-yongbyon/.
297 Peter Makowsky, Olli Heinonen, Jack Liu and Jenny Town, “North Korea’s Yongbyon Nuclear Center: Plutonium Production Continues Despite Heavy Rains,” 38 North, July 12, 2022, https://www.38north.org/2022/07/north-koreas-yongbyon-nuclear-center-plutonium-production-continues-despite-heavy-rains/.
298 Sang-Min Kim, “New Work Underway at Israeli Nuclear Site,” Arms Control Today, April 2021, https://www. armscontrol.org/act/2021-04/news/new-work-underway-israeli-nuclear-site.

299 Richard Silverstein, “What is Israel Building at its Dimona Nuclear Site?” Middle East Eye, March 5, 2021, https:// www.middleeasteye.net/opinion/israel-nuclear-site-dimona-what-building.

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