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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2024(12) 不可逆性

オーストリア、メキシコ、ノルウェー及び英国はNPT準備委員会で、核軍縮の不可逆性に関する共同声明を発表し、以下のように述べた262。

透明性や検証と同様に不可逆性を理解する努力は、それ自体が目的ではない。NPT第6条の精神と文言に従い、核軍縮を開始するための前提条件でもない。また、条約の枠内で合意された義務や約束を履行するための前提条件でもない。我々は、これらの義務と約束の実施には、これら3つの原則についてすでに行われた作業が有益であり、より効果的で持続可能な実施を確保することができると確信している。
我々は、透明性、検証可能性及び不可逆性という合意された原則を、あらゆる核軍縮努力に適用すること、またNPTのすべての柱の持続可能性のために、中心的な重要性を再確認する。
したがって、我々は不可逆性の適用について、技術的、法的、規範的及び政治的な側面から共通の理解を構築するため、締約国間の対話の強化を支持する。
また、すべての国が核兵器のない世界を達成し、維持することに関心を持っている一方で、このような対話の主な焦点は、核兵器国が核軍縮に関する合意された義務や約束を履行するための行動や活動における不可逆性にあることを強調する。
さらに我々は、核軍縮の努力が、核兵器の完全廃絶に関する法的拘束力のある義務に裏打ちされることによって、より不可逆的なものとなることも認める。
核軍縮は不可逆的であるべきであり、NPTのすべての締約国は、そのような兵器の使用から生じる破滅的な結果を懸念している。

また、英国のイニシアティブにより、不可逆性に関して国際的な専門家や実務家の間の対話を促進するいくつかのプロジェクトが実施された263。

 

 

A) 核弾頭及びその運搬手段の廃棄の実施または計画
米露間の新STARTでは、過去に締結された主要な二国間核軍備管理条約と同様に、条約で規定された上限を超える戦略(核)運搬手段について検証を伴う解体・廃棄を実施することが義務付けられている。核弾頭の解体・廃棄については、条約上の義務ではないものの、両国は一方的措置として部分的に実施してきた。このうち米国は、バイデン政権下で2021年に再び、各年に廃棄された核弾頭数を公表した。発表資料によれば、米国は2020年に184発の核弾頭を廃棄した。また、1994~2020年に米国が廃棄した核弾頭数は11,638発であった264。他方で、米国による核弾頭廃棄のペースが著しく低下してきたとも指摘されている265。

他の核兵器国からは、核兵器の廃棄に関する新たな報告はなされていないが、フランス及び英国は、退役した核弾頭や運搬手段の解体を行っている。このうちフランスは、2022年のNPT運用検討会議に提出した国別報告で、M4 SSBNの解体に着手したことを明らかにした266。

 

B) 核兵器関連施設などの解体・転換
核兵器関連施設などの解体・転換に関して、2023年には顕著な動きは見られなかった。EUはNPT準備委員会に提出した作業文書で、「核兵器またはその他の核爆発装置に使用するための核分裂性物質の製造施設の解体または平和利用のための転換に向けたプロセスを開始する」ことを求めた267。

フランスは、核保有国のなかで唯一、1996年に核実験場の完全かつ不可逆的な閉鎖を決定し、1998年に完全に閉鎖して除染作業を行った268。また、2022年のNPT運用検討会議に提出した国別報告では、兵器用核分裂性物質の生産施設(ウラン濃縮工場、再処理工場及びプルトニウム生産炉など)についても解体作業に従事していることを報告した269。米国は、1980年当時に14の拠点で構成されていた核コンプレックスが現在では8となり、冷戦終結以降、従業員数も3分の2に減少していることなどを報告した270。

 

C) 軍事目的に必要ないとされた核分裂性物質の廃棄や平和的目的への転換など
米露間のプルトニウム管理・処分協定(PMDA、2011年7月発効)271を巡る状況は、ロシアが米国による敵対的な行為などを理由に2016年10月に履行を停止して以降、打開に至っていない。

米露合意に基づいて計画された混合酸化物(MOX)燃料生産施設(MFFF)について、米国は2018年にプロジェクトを公式に終了させた(『ひろしまレポート2021年版』を参照)。NNSAは、MFFFを核兵器用のプルトニウム・ピット生産施設に改装することを検討している。

他方、南アフリカは以下のように述べて、核兵器国による対応を批判した。

仮にすべての民生用核物質が保障措置の対象となり、最高水準の安全が確保されたとしても、それは世界中の兵器用核物質の15%にすぎず、核不拡散体制には決定的なギャップが残る。したがって、軍事用核物質として分類され、国際的な安全保障基準や監視メカニズムの対象となっていない残りの85%を見失ってはならない。
2010年NPT運用検討会議で合意された、各核兵器国が軍事目的にもはや必要ないと指定した核分裂性物質の不可逆的な除去を確実にするための、IAEAとの適切な法的拘束力のある検証取極の策定において、その実施に向けた取組がほとんど進展していないことは遺憾である。核兵器やその他の核爆発装置に使用される可能性のある核分裂性物質の備蓄の追加申告に関しても、進展は見られない。それどころか、「2022年版保障措置実施報告書」は、一部の核兵器国がそのような物質を撤回していることを反映している272。

NACは、「核兵器国に対して、軍事目的にもはや必要でないと指定されたすべての核分裂性物質をIAEAに申告し、そのような物質を可能な限り速やかに保障措置の下に置くという、合意されたコミットメントの履行を求める」273とした。


262 “Joint Statement of Norway on behalf of Austria, Mexico, Norway and the United Kingdom,” Cluster 1, First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 3, 2023.

263 たとえば、以下を参照。“Irreversibility of Nuclear Disarmament,” Verification Research, Training and Information Centre (VERTIC), https://www.vertic.org/programmes/vm/irreversibility-of-nuclear-disarmament/.

264 NNSA, “Transparency in the U.S. Nuclear Weapons Stockpile.”
265 Hans M. Kristensen and Matt Korda, “Nuclear Notebook: United States Nuclear Weapons, 2023,” Bulletin of the Atomic Scientists, January 16, 2023, https://thebulletin.org/premium/2023-01/nuclear-notebook-united-states-nuclear-weapons-2023/.
266 NPT/CONF.2020/42/Rev.1, August 1, 2022.
267 NPT/CONF.2026/PC.I/WP.4, June 6, 2023.

268 NPT/CONF.2015/10.
269 NPT/CONF.2020/42/Rev.1, August 1, 2022.
270 NPT/CONF.2020/47, December 27, 2021.
271 解体された核弾頭から取り出された米露の余剰プルトニウム各34トンを、混合酸化物(MOX)燃料化して民生用原子炉で使用し処分することなどを規定している。

272 “Statement of South Africa,” Cluster 2, First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 7, 2023.
273 NPT/CONF.2026/PC.I/WP.5, June 13, 2023.

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